ビジネス・実用書レビュー
D・カーネギー『人を動かす』 コンプライアンスの手前で〜後編

補助金・助成金に強いビジネス・実用書レビューは1冊の本の書評を前編・後編2回に分け、毎月第2・第4月曜日(祝祭日の場合は翌日)にお届けいたします。
2冊目となる今回は、「日本で500万部突破の歴史的ベストセラー」と帯にある創元社 D・カーネギーの『人を動かす』を取り上げます。思いがけず熱くなって長くなってしまったので、今回は3回に分けて前編・中編・後編となります。前編はこちら中編はこちらです。

目次

顔が見えない大きな社会で

バレなければ

この葛藤を避けるために人々はいろんな策を巡らせます。その一つが「ズルをする」ということでしょう。
バレなければ多少の嘘やズルは許されるだろうという考えです。
もっと巧妙に「嘘ではないが本当でもない」ということを行うこともあるでしょう。
ゴーンショックで企業のコンプライアンスが今まで以上に問われるようになってきています。
大量生産の上には消費者というエンドユーザーは見えにくくなりがちです。一方で
にとって贔屓のブランドは唯一無二の存在であり、同じ製品があっても他ではなくその企業のそのブランドを選ぶわけですから、社員の一人一人ではないにしろ、社長と企業はエンドユーザーから見られているのです。その企業のブランドを愛してきたエンドユーザーの喜ぶ顔を想像しながら、そのことを忘れずに仕事を続けられる企業人はどのくらいいるでしょうか。
カーネギーがこの本を通して説いているのは、どうでもいい人から自分の欲しいものを得ることではなく、信頼し合える友を得る方法です。人を操って思い通りにすることではなく、自分が本当に良いと思うことを上手に伝えて役に立てて喜んでもらう方法です。
何より、彼自身がこの本を通して、自分が本当に良いと思ったことを伝えて役に立てて喜んでもらうことを考えていたのではないでしょうか。
しかし、手段を選ばず自分の利益を第一に考え、人を思い通りに操ることを目指している人がいたとしても、カーネギー自身が言う通り、それを批判し避難し、苦情を言うことでは何も解決しないでしょう。むしろ逆効果であると彼は言っています。
Part 1の「人を動かす三原則」も原題では“Fundamental Techniques in Handling People”で直訳は「人を扱う時の基礎技術」という意味になります。「人を動かす」とは言っていないのです。
この他者に対する態度の違いはどこから来るのでしょうか?

内面が外面に出ている

多くの日本人はウチソトを持っています。外の人々には顔がありません。匿名性が人間の残虐性を助長するということは心理学の研究からも知られています。顔見知りや家族であっても、自己防衛本能が働けば相手の立場も気持ちも二の次になってしまうことすらあります。
アドラーの『嫌われる勇気』を前回取り上げましたが、アドラーとカーネギーは共通の人間観を持っています。それは人類全体に対する仲間意識や平等感です。
彼らは、人間は自分を基準に世界をとらえることしかできないということを、自らの経験値によって判断しています。
身内や家族だけを大事だと思って守ろうとしている人は、攻撃から家族を守るという命題を持っています。しかし、人類全体が仲間であり平等であるという世界観の中にいるなら、誰が何の目的で私たちを攻撃をするのでしょうか。身内以外の人間からは攻撃を受けるものだという考えの元は本人の世界観の中にあるということになります。
自分を騙している人は他人を騙すことをなんとも思わないということになるでしょうか。自分にバレないことは無いことと同じであり、他人にもバレないことは無いことと同じであるという原理です。

動機が大事

人と関わっていればいいこともありますが、同時に葛藤を避けることもできません。生きるために経済活動をしないことも現代の社会では不可能です。
企業の経営をしている方々にとって、日々のほとんどの時間は会社経営を中心とした喜びと葛藤であると言っても過言ではないでしょう。
従業員を守るため、家族を守るため、自分を守るために、事業の発展を望み、利益の拡大や安定を求めるのは当然のことです。
しかし、誰から何を守っているのでしょうか。誰がなぜ攻撃するのでしょうか。
もし、カーネギーがこの本を通じて伝えたかった真意を汲み取ることができたら、ビジネスにおける葛藤や不安は薄らぐのではないでしょうか。
なぜなら、競合他社も含めて企業が世界中の人々に提供する商品やサービスは相手の幸せを自分の幸せのように願う活動の結晶でしかないからです。つまり、本気で自分にとってよかったものを人々に勧めることが商品やサービスの提供であり、そこには自然に企業のコンプライアンスが含まれているからです。ステークホルダーに叱られるからではなく、ステークホルダーに喜んでほしいという動機が、自然なコンプライアンスつまりWin-Winの関係であると言えるのではないでしょうか。


ライター:鶴見紀子(True Color Create / WE GiRLs CAN

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