ビジネス・実用書レビュー
リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』日本文化におけるご隠居さんという存在〜後編

補助金・助成金の強い味方、補助金リーチ.comのビジネス・実用書レビューは1冊の本の書評を前編・後編2回に分け、毎月第2・第4月曜日(祝祭日の場合は翌日)にお届けいたします。
3冊目は世界中のどこよりも日本人が「人生100年」にリアリティを感じているためか、2016年の日本語版発売以来売れまくっているリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットによる『ライフ・シフト』東洋経済新報社を取り上げます。

ライフシフト

目次

人生100年になると何が問題になると著者は考えているのか

人生をマラソンに例えると、走行距離が長くなったわけです。10キロのマラソンコースが20キロになったと考えてください。同じペース配分で走ったら、体を壊します。
次に、これを人生に置き換えてみましょう。
20歳で働き始めたとして、60歳で引退するとします。40年働く計算になります。
人生70年ならご隠居期間は10年で、10年遊んで暮らして葬式代が出ればいいかなという貯金を40年で貯めます。
人生100年ならご隠居期間は40年となり、それまで働いてきた40年と同じだけあるわけです。
20歳からの40年で定年退職後40年の悠々自適のための貯金をして葬式代を捻出するとなると、いったいいくら必要になるのでしょうか。漠然とした不安がここから噴出し始めます。
まずは経済的な問題です。おそらく80歳くらいまでは働くことになるだろうということですから、そこまで働いても体を壊さずいられるような働き方生き方をする提案をしています。
しかし、著者はお金の問題だけを取沙汰しているのではありません。
最後に詳しく述べますが、人生100年にはアイデンティティの危機という問題もあります。
経済活動をするということと、社会と関わって生きるということは切り離せませんので、アイデンティティの問題はお金の問題とセットであるといってもいいかもしれません。
AIやロボットなどに「労働」が取って代わられる時代を予測し、どのように社会でアイデンティティを保っていくのかについても考える必要があることも訴えています。それは自己紹介でどんな仕事をしているかを話すことによって自分を知ってもらうことができなくなるということを意味しています。ある意味では、AIやロボットが働く世界は、人類すべてが早期退職してご隠居さんになるといってもいい世界です。
心理学者(グラットン氏)と経済学者(スコット氏)が精神的な活動や家庭生活も含めて考え直すよう問題提起をしているのはそういった背景があるのではないでしょうか。具体的には、グラットン氏が組織論の権威であることと無関係ではないと思います。組織では組織の構成員である一人ひとりの働くモチベーションやライフステージについて研究するからです。

今に始まったことではない!

組織というのは会社や労働環境と、個人の家庭やライフステージといったものと相関関係にあります。
著者はライフステージと言われる就学、就職、結婚、出産、子育て、リタイアという人生の大きなイベントを通して経験する変化も、「人生100年」によって影響を受けるとしています。
子育てが終わったころに、ミドルエイジクライシスという精神的な危機を迎えるといわれています。とにかく子どもを育てるためにお金を稼ぐ時代を終えた時に、この先何を支えに生きればいいのかといった問いを抱えるからでしょう。
最近では人生のもっと遅くにもう一度、老年期の精神的な危機を迎える人が増えていることが社会問題となりつつあります。老年期のウツと高齢者の自殺の問題です。
人類がこの世界に存在した古来より、人間という存在が社会を構成してお互いを比較したり投影したりしながら、自分は何者かというアイデンティティを得ながら生きている以上、いわゆる「居場所」や「所属」といったものなしに生きるのは非常に難しいことでもあります。
どんな社会的なステータスを身にまとっているのかということが実に重要なアイデンティティになるのは疑いようのない事実です。
落語のご隠居さんは、隠居はしつつも物知りとして頼りにされることで、長屋での地位と居場所を持っています。
会社を退職あるいは事業を手放し、隠居した後もアイデンティティの危機を迎えずに社会の中で居場所を見出す必要性を説いている書と読むことも可能なのかもしれません。
『楢山節考』は姥捨て山の話ですが、かつて寒村で経済活動や生産活動ができない老人を食い扶持を減らすために切り捨てる風習があったように、老人問題は高齢化社会を叫ばれる今に始まったことではないのです。
年を取っても、遊びであれ仕事であれイキイキと活動ができないほどに疲弊してしまわないこと、80歳くらいまでは精神的に所属感や希望や楽しさを感じられ続ける環境を自分でデザインしながら生きること、若いころから全員が無理をしなければ回らない社会を支えないことの重要性を、この本は人生100年という切り口で多くの人々に考えるきっかけを与えているのだと思います。
「不安」とは「未知」で「漠然」としたものに抱くものであり、その正体がわかってしまえばやることが見えるようなものですから、いたずらに不安に駆られて不要な出費をかえってしてしまわないよう、長く続けるとして何をすれば楽しく続けられるかに心を砕き、頭を使いましょう。

この流れを汲んで、次回は枝廣淳子著『人生のピークを90代にもっていく!』の書評をお届けしたいと思います。


ライター:鶴見紀子(True Color Create / WE GiRLs CAN

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